当社運営のミュージアムショップでお取り扱いさせていただいている作家さん、職人さんの手仕事にふれる読みものです。
富⼭市ガラス美術館ミュージアムショップでは、2024年6⽉14⽇より9⽉23⽇までガラス工芸家・市川知也さんのガラス作品を期間限定販売しております。
これに伴い、市川さんとガラスとの出会いから、この先挑戦したいことまでを伺ったインタビューをご紹介いたします。軽妙な語り口を皆様にもお楽しみいただきたく、今回は動画を多めに構成しています。
●ガラスを始めたきっかけ
超就職氷河期の中で迎えた大学卒業。
”ネクタイ締めて電車に乗って会社に行って”という生活は長続きしない予感がするし、”だからといって何をする?”と悩んだ時にふと浮かんだのが、小さい頃から集めていたビー玉でした。
「あ、俺、ガラスが好きやわ」
と思い出し、「好き」を仕事にしようとガラス職人の道へと進んだ市川さん。ガラス工房探しから始まった、おもしろおかしいガラスとの出会いをお話しいただきました。
●大阪の町工場から宮崎のガラス工芸作家・黒木国昭氏の元へ
型吹のガラス工場で技術を身につけていった市川さんですが、折しもの不景気で工場の存続が危うくなり、転職を考えます。
いくつかの候補の中から、思い切って電話をかけてみたのが、「現代の名工」と称されるガラス工芸作家・黒木国昭氏の工房・グラスアート黒木でした。
●富山の「白」の美しさに感動。
苦しみの先に生まれたガラス作品「雪舟」が作家としての原点に
グラスアート黒木に在籍しながらも、作家として独り立ちする道を模索しましたがうまくいかず、2013年に職人からガラス作家としての成長と販路を求めて、富山に移ります。
14年間に及んだグラスアート黒木での経験により、技術はすっかり身に付いています。何でも作れるつもりでいざガラスに向き合うと、できあがるのは黒木先生の影響を受けたものばかり。黒木先生の右腕になることを夢見て研究を重ねた、レシピ本のようなノートの存在に苦しめられます。
そこで原点に立ち戻り、「好き」を手掛かりにたどり着いたのが、水墨画からヒントを得たガラス作品「雪舟」でした。
市川さんの最初のガラス作品「雪舟」
●作品へのこだわりや伝えたいこと
「雪舟」が富山の伝統工芸展で受賞したことにより、これが自分の作品だという自信が生まれます。「好き」だと感じる形や色、記憶の中の原風景をヒントに作品を作ることも多いのだそう。
特に、小さい頃から大好きだったビー玉への想いは強く、球体の作品も多くあります。こちら(下の写真)は「ルリカラシリーズ」。上部に穴が空いていて、用途で言えば花瓶ですが、市川さんの中ではあくまで大きいビー玉とのこと。幼い頃に泳いだ川で、水に潜って下から水面を見た時の、自分の口から出た泡、水面の反射、太陽、周囲の緑…。それらを写した原風景の作品です。
美しい色合いと泡の表情が楽しい球体の作品
そもそもガラスの中に泡を閉じ込める技法は、スタンダードな技のひとつ。それを作品に用いることにもまた、幼い時の記憶があるといいます。
「小学生の頃、南極観測隊の方が学校に特別授業に来られたことがあって。その時に、氷の中に封じ込められているのは、何万年も前の空気だという話にとても刺激を受けたんです」
その話が原風景となり、「特別な日」の贈り物になるような、大安や一粒万倍日などの縁起の良い日の空気を封じ込めた作品も作るようになったといいます。市川さんの優しい想い、人を思う気持ちが伝わってくるエピソードです。
ガラスのおもしろさがわかる様々な表現も魅力です
●限定販売でも扱う「sun」シリーズ誕生の経緯
「ハレの日に使うものって、どうしても値段が高くて毎日使えないものが多いじゃないですか。もっと普段使いのものを、と考えた時にふと浮かんだのが食器でした。とくにコップほど毎日口をつけるものってないんじゃないかなと思って」
と話す、市川さん。
シンプルを目指した過程の中で「sun」がうまれました。
高台が三角形の「sun」シリーズ
●今後、挑戦してみたいこと
富山にはガラス以外にも、銅器や漆器、木彫刻などの伝統工芸が息づいています。こうした異素材の職人や作家が身近に居ることが、とても良い刺激になっているそう。ガラスの透明感を引き立てるのも、異素材の質感とのこと。確かにそうかもしれません。
そんな市川さんが今後挑戦してみたいことは、アートピースだそうです。
お話が面白くて、もっとご紹介したいところですが、今回はここまで。
美大出身ではない市川さんがガラス工芸家になるまでのストーリーは、ガラスを志す人だけでなく、多くの方にも共感いただけるのではないかと思います。
市川知也さんの期間限定販売は9月23日まで、富山市ガラス美術館ミュージアムショップ(Instagram )にて開催中です。
【市川知也さん経歴】
1974 滋賀県湖南市生まれ
1997-1999 朝日硝子製作所 勤務
1999-2013 黒木国昭氏に師事
2013 富山ガラス工房 所属 ( ~ 2017 )
2014 日本伝統工芸富山展 高岡市長賞
2015 伝統工芸諸工芸部会展 入選
テーブルウェア大賞 優秀賞、審査員特別賞
2016 富山市美術展工芸部門 大賞
2017 独立
2018 滋賀県美術展工芸部門 芸術祭賞
2019 富山県美術展工芸部門 新人賞
2020 テーブルウェア大賞 入選
その他 受賞多数
日本橋三越、横浜髙島屋、梅田阪急、京都髙島屋 等
有名百貨店を中心に全国で作品展を開催し、精力的に活動中
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