top of page

NEWS

新 着 情 報

新店舗や新商品の情報のほか、各施設の企画展・特別展・イベントやミュージアムショップの新着情報をお届けします。

毎日、水族館や博物館・美術館に通うショップスタッフならではの、旬でレアなお便りもあるかも!? ぜひご覧ください。

【手わざを訪ねて】Vol.9 小副川太郎さん/博多人形師:前編「筆先から生まれる“福かぶり猫”−博多人形ができるまで」

更新日:2024年12月20日

当社運営のミュージアムショップでお取り扱いさせていただいている作家さん、職人さんの手仕事にふれる読みものです。

 

福岡市美術館ミュージアムショップのオリジナルグッズに、収蔵品をモチーフにした博多人形の招き猫があります。

その名も「福かぶり猫」。

空き箱や袋にすぐ潜り込む、猫の愛らしい習性である「袋をかぶる」に、「福をかぶる」と「ふくおか(福岡)ぶる」を掛けあわせた、400年来の歴史を持つ伝統工芸品の博多人形です。

福岡市美術館オリジナルミュージアムグッズの「福かぶり猫」

今回は、この「福かぶり猫」を制作する博多人形師の小副川太郎さんの工房にお邪魔して、「福かぶり猫」の制作風景や博多人形にまつわる様々なお話を伺ってきました。

前編は、「筆先から生まれる“福かぶり猫”−博多人形ができるまで」です。


***


−福岡県の伝統工芸品である博多人形。イメージは「田舎のおじいちゃんちの玄関に飾ってある、美しい着物姿の女性像」なのですが。幼心にキレイだなぁと思って見ていました。

博多人形:美人物(写真提供:福岡県観光連盟)

あの女性像は「美人物(びじんもの)」っていいます。やっぱりあれが、博多人形の一番代表的な作例ですよね。ほかに武者物、童物、歌舞伎・能物、節句物や雛人形などがあって、題材も神話からスポーツまで、結構自由にいろいろありますね。「◯◯型」とか「■■流」みたいに、決まった形ってものはないんですよ。

博多人形:モダンテイストな歌舞伎物(写真提供:福岡県観光連盟)

昔はどの家の玄関にも飾ってあった博多人形も、最近は生活環境の変化によって、新居祝いや結婚祝いに贈ることも減ったし、お土産需要も減っています。ニーズに合わせて、小さなものやモダンな家に似合うものとか、作家それぞれに工夫を凝らしていて、昔よりバリエーションは増えた印象がありますね。

 

−ちょうど変革期なんですね。材料は何を使うんですか?

 

福岡市七隈地区で採れる白土を使うんですが、実は土はあるけれど、掘る人=粘土業者がもうすぐ廃業しちゃうんですよ。

白土(写真提供:福岡県観光連盟)

博多人形組合が白土の成分分析をして、似た土を探す試みが始まっていまして、今のところ佐賀の土を使って、同じ成分になるよう粘土を配合してもらい調整をしているんです。でも、バクテリアの量の関係なのか、感触がどうしても違っていてちょっと作りにくいですよね。まぁ、慣れの問題かもしれないですけど。

僕の場合は、美人物などの素肌感を表す薄い色を使うときは白土を、それ以外のときは割と濃い色を塗るので白土より浅い層から採取される赤土を使っていますが、どちらももうすぐ採る人がいなくなってしまう。伝統工芸なら一度や二度は必ずある存続の危機。博多人形もまた、大きな課題を抱えているところです。

 

−なるほど。原料が枯渇したりしないのかな、という心配をしていたのですが、まさか掘る人がいないという問題があるとは思いませんでした。材料や道具の作り手まで含めて、後継者不足は大きな課題ですね。博多人形は分業制ですか?

 

いいえ、全部一人で作ります。

同じ伝統工芸の人形でも、埼玉の岩槻人形をはじめ分業制の方が多いですが、博多人形は最初から最後まで、全パーツ・全工程を一人で作るというのが特徴ですね。

原料の白土の粘土を精製して練り上げてから、まず原型をつくります。普通はデッサンをするけれど、僕は美術大学出身ではないので、デッサンはせず、直接原型を作っていきます。題材は、写真集や図録など、作りたいなと思うものを資料で探して作ります。

原型ができたら、「一点もの」の場合、中の粘土をくり抜いて、乾燥させて、焼成します。昔はうちにも窯があって自宅で焼いていたけれど、今は焼成だけはよそに頼んで焼いてもらっていますね。

乾燥、焼成前に、生地の素材感を表す模様をつけます。

この質感の表現力が、生き生きとした博多人形の大きな特徴のひとつです

 

焼成した生地に胡粉を塗り、岩絵の具を用いて着色していきます。 髪の毛や眉は毛の一本一本まで、着物の柄もひとつひとつ描き込み、完成させます。すごく根気のいる作業ですね。

この人形は、2、3年経つけれど、まだ完成していません。いつかは仕上げなきゃなぁと思っているんですけど、途中で別の仕事に取り掛かっちゃったりして、なかなかできません(笑)。

作り途中の一点もの。精細な模様の描き込み具合を見れば、なかなか仕上がらないのもわかる気がします

もうひとつ、「型もの」っていうのは、最初の原型の段階でパーツごとに分解して、石膏で型をとります。その型に、ミリ単位の厚みで粘土を押し込んでいき、取り出して接合し、乾燥、焼成。そして、一点ものと同様に、彩色を施します。

量産商品と思われがちですが、人形ひとつに対して10を超える型が必要なこともあり、その工程は複雑です

−1点ものと型で作るもの、作り分けはどうしているんですか?

 

初めからこれは型で作っておこう、と思う場合もありますが、逆に1点しか作っておらず、あとで型を取っておけばよかった! と思うこともあります。自分の場合、最初に作るときはワクワクしてすごくテンション高く作るんです。それが好評で「あれ良かったよ」「おもしろいよ」と言ってもらえることもとても嬉しいです。

小副川さんの工房。11月半ば、干支ものの制作が進んでいました

だけど、それで注文が入って、じゃあもう一度原型つくって型を作らなきゃ、となると、途端にこだわり過ぎてしまった動きや、病的なぐらい描きこんでしまった着物の柄なんかが、思い起こされて、「あれをまた作るのかー」と憂鬱になったりします(笑)。

 

−(笑)作家だけが知る苦悩ですね。

 

はい。なので、明確な作り分けはないですね。

商売ベースに乗せないで度外視の手間をかけ、技術を注ぎ込んだものを作ることと、型を取ることを考えて原型を作り、モチベーションと均質性を保ちながら作品作りをすること、どちらが良いかは一言ではいえません。ただ、売れないからといって辞めるわけにはいかないと思っていますし、一点ものだから、型ものだから、という区別はないです。

 

−博多人形をじっくり拝見するのは今回が初めてだったのですが、肌の質感、衣の風合い、模様の精細さなど、美しさに引き込まれました。1点ものと型もの、手間のかけ方に変わりがないことも、作成途中の作品を見せていただいたことで、よく理解できました。

しかし「福かぶり猫」はこれらの作品とはずいぶんテイストが違いますね。

 

元々「福かぶり猫」は、福岡市のプロジェクトチーム『HAKATA KOGEI LOVERS』の「インバウンド向け伝統工芸品」開発事業によって生まれたものです。博多人形と博多織の伝統工芸作家のほかに、デザイナーや外国人ラジオDJ、マーケッターなど普段なかなか交流のない人たちとの共同プロジェクトが作られて。で、インバウンド向けということで縁起物の招き猫を作ろうとなって、それぞれ形を考えたわけです。

『HAKATA KOGEI LOVERS』フライヤーより

 僕なんかどうしても招き猫っていう概念に引っ張られちゃって、ありきたりな姿しか思い浮かばなかったんですが、デザイナーが持ってきたのがこの形でした。この発想はなかったなぁと、すごく驚きました。

ただ、インバウンドより日本人の方が受けるんじゃないかと思いましたね。何重にも意味が重なり、言葉遊びの要素もあるので、日本人の方が込められた思いが響くのかもしれないなと。実際、新感覚の博多人形ということもあり、日本人に人気みたいです。

 

−福岡市立美術館のリニューアルに際し、その「福かぶり猫」に、さらに美術品をまとわせたミュージアムグッズの提案をしてご快諾いただきましたが、制作は順調でしたか?

 

既成概念から飛び出るのは『HAKATA KOGEI LOVERS』で一度経験したものの、美術品を猫の体に落とし込む発想に、またも驚きました。でも、お引き受けして本当に良かったと思っていますね。異業種の方との絡みのおもしろさは、凝り固まった概念を打ち破ってくれるところです。今度はこの美術品を猫にするのか、と毎回楽しく制作しています。

福岡市美術館オリジナルミュージアムグッズの「福かぶり猫」

「フジタの猫」なんて、脇の方に小さく描かれた猫じゃないですか。この猫によく着目したな、と驚きましたね。

 

−昨日、実際に美術館でレオナール・フジタの『仰臥裸婦』を拝見してきました。猫は思っていたよりも小さく、でも精細で驚きました。原画を見てから、「福かぶり猫」を見ると、どれほど良く特徴をとらえているかが、伝わりますね。下書きはしないで、直接描いていくんでしょうか?

 

博多人形はそもそも下書きしないんです。ちょうど仙厓義梵「虎図」の猫の準備ができているので、ちょっと描いてみましょうか?




−すごいです! 原画を見つつも、迷いなくあっという間に虎が現れました!

 

「虎図」は、筆の勢いが重要ですね。おそらく仙厓さんもこんな風に描いたんじゃないかと思います。もちろん「フジタの猫」の時は、筆も書き方も変えています。作品によって、作者がどう描いているのかを観察しながら描いていますね。

描きたてホヤホヤの仙厓義梵「虎図」の「福かぶり猫」

今は3Dプリンターがあるから、いつか形は真似されてしまうかもしれないでしょ? でも模様は真似できないと思います。今見てもらった通り、僕自身のその時その時の呼吸と筆使いが現れるから、どれひとつ同じものはない。機械で画一的に作れるものではないと思っています。

 

−世界に一つだけのミュージアムグッズですね。とても嬉しいです。美術品をモチーフにすることでなにか気づかれたことはありますか?

仙厓さんの筆致を読み解く小副川さん

美術品のほかに、漫画作品などを立体にしたこともあるんですが、立体になりやすい/なりにくいは、デッサン力の有無が関係するんだなって気がつきました。それと同時に、確かな技術に裏付けられてこそ、本気の遊びがおもしろさに変わるということ。作品に対してそれだけ努力するようになりますよね。

 

−次作はまた仙厓作品を描いていただきたいと思っています。

 

そうですよね。頼まれたのはもちろん覚えているんだけれど、なかなか題材を選びきれなくて。犬か猿か、何にしましょうか? 楽しみに待っていてください。

 

−ありがとうございました。とても楽しみです。

 後編は、3代目人形師としての小副川さんをもう少し深掘りさせていただきます。


 

【福岡市美術館ミュージアムショップ】

2019年にリニューアルオープンした、水と緑に恵まれた大濠公園の中にある前川國男設計の美術館です。1階エントランスロビーにあるミュージアムショップでは、所蔵品のオリジナルグッズや、焼き物の写し、所蔵品図録、地元出身のクリエイターによるグッズ、福岡の伝統工芸品等を取り揃えています。特別展示やコレクション展示開催に際しては、関連商品や書籍を随時入れ替えています。そのほかに、アートグッズや他のショップではあまり見かけることのない海外製の文具等も販売しています。

オンラインショップHP https://fukuoka-art-museum.shop/

ミュージアムショップX https://x.com/fukuoka_artshop

Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page