当社運営のミュージアムショップでお取り扱いさせていただいている作家さん、職人さんの手仕事にふれる読みものです。
富⼭市ガラス美術館ミュージアムショップでは、2024年9⽉27⽇より11⽉25⽇までガラス作家/小宮崇さんのガラス作品を期間限定販売しております。
夏から取り上げてきた、富山のガラス作家取材も今年度はいよいよ最終回です。
トリとなった小宮さんのガラスとの出会い、そして伊豆諸島の新島から富山へと作品作りの場所を移した経緯、作品に向ける想いなどを伺いました。動画と共にご覧ください。
●ガラスを始めたのはいつですか?
子供が好きだったので小学校の教師か、美術の教師になりたくて大学に進み、そこでガラスに出会いました。
大学の溶解炉で溶けたガラスを初めて見たんですが、まったく吹き竿に巻き取れなくて…。だいたい陶芸でもなんでも、下手なりにもなんとなく形になるじゃないですか(笑)。なのに、ガラスだけは素材を取ることすらできない。その悔しい思いが続ける原動力になって、もっと素材を知りたいと思ったんですよね。
何か熱意を持ってひとつのことを続けるっていうタイプではあんまりないんですけど、ガラスだけは続きましたね。それだけ自分にとってはおもしろい素材なのかもしれません。
●8年間過ごした新島から富山に拠点を移したきっかけは?
そもそもは大学卒業後、大きな作品を作りたくて新島へ行ったんです。
<新島> 伊豆諸島のひとつである新島は、東京の南約160キロにあり、海の青さと白い砂浜のコントラストが美しい島です。島の特産物である抗火石(コーガ石)を原料としたのが、新島ガラス。鉄分を含有しているためオリーブ色に発色する天然色ガラスです。1988年に開講した新島ガラスアートセンターは、新島ガラスを観光資源や芸術作品の素材などとして多目的に活用を図るための開発および教育施設で、ワークショップや作品制作を通じて人材育成や国際交流の場を提供しています。
そこで初歩的な技術を学んだあと、だんだんとオブジェなどをこなすようになって、コンペに出品して。けれど、コンペに出しておしまいというところに「なんか違うな」と疑問に感じだしたんです。
オブジェを作るよりも、生活の中に息づく器作りや、使ってくれる人の反応のある仕事がしたい、って思うようになったんですよね。
そこで「一から勉強をするなら富山市ガラス工房かな、個人作家もいっぱいいるし」と思って、新島で出会ったガラス作家の妻と共に、富山に移りました。
●新島と富山、ガラスを取り巻く環境の違いはありますか?
それぞれ違った特徴、魅力がありますね。
新島では、今年で34回を迎えたガラスアートフェスティバルが開催されていて、海外の著名作家が招聘されて、その技を間近に見ることができるんです。それはとても良い刺激になりますよね。
新島ガラスアートセンター
新島では作品の販売はできないけれど、代わりにいくらでも作品を作っていいんです。コンペにも出品したければいくらでも挑戦できる。だから技術をつけられるし、独立のための腕磨きができます。自分のことを考える時間もたくさんあります。僕の場合、技術を身につけて上手くなっていく時期とリンクしていたので、頭で思い描いたものを形にする技術を身につけることができた場所でした。
富山ガラス工房
一方、富山では、独立するための資金のこと、販売・販路のこと、普段使いのプロダクションのことなど、社会とどう繋がっていくのかを学ぶことができました。ノウハウもデータとして蓄積されているので、ガラス作家として生計を立てる一歩を踏み出せました。日々の暮らしの中でガラスを使うことや、作品に対してお客様がどういう反応をするのかを考えて制作しています。
自分にとってはこの、新島→富山の順番はすごく良かったです。これも巡り合わせなんでしょうけど、逆は考えられないですね。
●作品作りで大切にしていることはありますか?
去年の10月に富山県砺波市に自分の工房立ち上げました。
最近は普段使いの器を作っているんですが、サイズ感や持ちやすさなどのプロダクト的なことを大事にしています。ガラスの色の調合をして、グレーっぽい作品をメインに作っているんですが、白をかぶせることで、厚みの変化で色のグラデーションが出せるのがおもしろくて…。自分のエッセンスだけでなく、手に持った気持ち良さ、見た目の美しさも大切に表現しています。
小宮硝子制作所
そもそも僕の作品は、陶器のように見えたり、触った感じもガラスっぽくないものが多いです。陶器のような表情を見せつつ、でも内側はガラスの透明感が残してある、そんな見せ方が好きですね。ガラスの新しい見せ方の追求、僕しかできないような見せ方ができたらと思っています。
といいつつも、主軸は普段使いの器や道具に定まってきたんですが、それゆえなのかアートピースなどの大きいものを作るのも楽しめるようになってきました。展示会にも呼ばれるようになってきましたし、そんな作品も見せられたらなぁと思っています。
●転機となった作品はありますか?
片口ですね。
富山に移ってきて、普段使いの器ってどんなものがいいかぁって考えていた時に、普段ぽくもなくアートでも無い、そのちょうど中間にいるように感じたのが、片口だったんです。
片口がついた鉢に遊び心を感じて、いろいろな形の器にちょっと口をつけてみようかな、と思ったのが始まりです。 これが、今の自分に至る転機だったのかもしれません。生活面で食べていかなきゃと思って、生活の器を作り出すきっかけになりました。
●未曾有のコロナ禍、どう過ごされていましたか?
僕はちょっと特殊なのかもしれませんが、コロナになってから作品が売れ始めたんです。
オンラインショップが増えて、個人の作家が活動するのに絶妙なタイミングでしたし、そういうちょっと作家の想いが込められた器が、閉塞的なおうち時間を彩るアイテムとして重宝されたのかもしれませんよね。
●好きな作業、苦手な作業はありますか?
吹きガラスの作業はすごく好きなんです。でも、削ってツルツルにするまでの加工過程がすごく苦手で…。だからなるべく吹いただけで終わるように仕上げています(笑)。
でも、サンドブラストは好きです。手作業でサーッとできるので。
そうそう、ミュージアムショップ限定で卸させてもらっている、金縁十角ぐい飲みの金彩は難しいですね。筆を使って金泥を塗って、焼き付けているんですけど、思った通り焼けなかったりして結構難しかったです。最近だいぶ慣れてきて、ちょっと楽しくなってきたところです。
子育て真っ最中の小宮さん。ガラス制作ではなく、お子さんの抱っこのしすぎで腱鞘炎になっていらっしゃったのですが、自身の窯を昨年立ち上げたばかりの、まさにこれからの富山ガラスを担っていく世代です。生活の器とアートピースの両方で、富山をベースに小宮さんらしい作品が生まれるのが楽しみです。
小宮崇さんの期間限定販売は9⽉27⽇より11⽉25⽇まで、富山市ガラス美術館ミュージアムショップにて開催中です。
【小宮崇さん経歴】
1985 埼玉県生まれ
2009 明星大学日本文化学部造形芸術学科ガラスコース卒業
新島ガラスアートセンター スタッフ勤務(~2017)
2014 第53回日本クラフト展 優秀賞 受賞
2015 TALENT2015 入選(ドイツ)
2016 第55回日本クラフト展 奨励賞 受賞
2017 富山ガラス工房第2工房 所属(~2019)
2018 アートフェア富山北陸コカ・コーラボトリング賞
2020 富山ガラス工房 所属(~2022)
2023 富山県砺波市で「小宮硝子制作所」を設立
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