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【手わざを訪ねて】Vol.3 佐々木俊仁さん/ガラス造形作家③

更新日:2023年10月17日

当社運営のミュージアムショップでお取り扱いさせていただいている作家さん、職人さんの手仕事にふれる読みものです。

 

●佐々木俊仁さんHP「S glass studio」

 

がむしゃらさを武器に、富山のガラスのために奔走した10年間


工房に所属すると、作家として作品を作って販売しなければなりません。しかしプロトタイプの「時の花」では数を作ることができませんでした。そこで、内側に透明ガラスを用いたお猪口を作って日本酒の利き酒会に持って行ったら、「こんなの見たことない!」とすこぶる良い評価を得ます。

現在の「時の花」に近づいたお猪口。縦のラインとドットの透かし模様にオリジナリティを感じます


工房の契約期間は3年間、ここでスイッチが入ります。

1年目は、同期3人の中で誰よりも早く来て作品を作り、誰よりも遅く帰る!

2年目は、売り上げトップになる!

3年目は、独立に向けて動く!


がむしゃらに喰らいつくのはもはや得意技です。独立目指して懸命に過ごした3年目、富山ガラス工房に第2工房建設の話が挙がり、独立の勉強にもなるんじゃないかと立ち上げメンバーに誘われ、そのままスタッフとして7年間を過ごすことになります。

富山ガラス工房の第2工房。大きな溶解炉と幾つものグローリーホールを備え、 ガラス制作体験を行なっています(画像提供:富山市観光協会)


いよいよ独立か、と思いきや、次に挑戦したのが富山ガラス造形研究所の助手でした。

研究所の生徒が作家としてステップを踏むための施設が富山ガラス工房なのですが、そのレベルの高さに進学を躊躇する生徒が多いことに気が付いたのです。

富山市のガラス文化醸成のためには、若い人に「ガラス作家」という職業に興味を持ってもらい、しっかり学べる手助けが必要なんじゃないか…。

そう考えた佐々木さん。独立をもう少し先延ばしして、富山のガラスへの恩返しのために奔走することを決意します。

ガラス工房に隣接して建つ、富山ガラス造形研究所。ガラス造形作家を養成する全国唯一の公立専門学校です


具体的に若い人がガラスを職業にするには何が必要か? 

富山ガラス工房の給与体系の説明や労働環境の改善にも力を入れて、人材育成に努めます。例え富山でなくても、故郷に帰ってでも、ガラスを続けて欲しい。

そんな思いで動いた結果、最近では、日本各地で活躍するガラス作家のプロフィールの多くに「富山」の字が入っているとのこと。ようやく佐々木さんが望んだことが身を結んできているのかもしれません。


「お土産品ではない、アートとしてのガラスに小さい頃から触れられたり、授業の一環としてガラス体験を行ったりしているのは、富山市だけじゃないでしょうか。 ベネチアのように小さい頃からガラスに触れて育つこと。それが文化発信であり、人材育成に必要なことだと思います」


コロナ禍での独立。新たなガラスの可能性への挑戦


ようやく独立へと舵を切ったのは、2019年のことでした。

助手をしながら個人工房の場所探しを始め、やっと見つけた望み通りの物件。即決で購入し、手作りで工房兼ショップを作り上げました。溶解炉には火を入れず、まずはショップの先行オープンでしたが、ここで世の中をコロナが襲います。

様々な作品が見られるショップ。ガラス作品以外にも興味深いものがたくさんあり、居心地の良い空間です


展示会のキャンセルが始まり、委託販売先も休業。富山ガラス工房の溶解炉をレンタル契約していたものの、作品を作る必要がなくなり、収入はゼロなのにお金は飛んでいくばかり。


しかし、逆境に強いのが佐々木さん。

今回も絶対に喰らいついてやる! と、アイディアベースだった多くのことに挑戦する機会と捉えます。 例えば、金属箔を貼り付けて化学反応を起こさせたり、色ガラスの棒をつけてみたり…。ガラスの不規則な動きがこれまでにない仕上がりとなり、コロナの波間に開かれた展示会に出品してみると、評判も上々。早速、新たな手応えを掴みます。


建築用の板ガラスを吹いてみたのもこの頃のこと。 工芸用のガラスに比べると溶解温度が低く、割れやすく固まりやすいことから、ガラス工芸作家からは敬遠されがちでした。

板ガラスを吹くというアイディアは、以前沖縄を訪ね、琉球ガラスに触れた時に得たもの。工房も溶解炉も手作りで、ガラス瓶を再利用してガラスを吹く様子に常識が覆され、ありものを解いて、自由に作品を作る姿に強く惹かれたのです。

レンタル工房の溶解炉にダメージを与えないよう、わずかな量しか試せないながらも、思ったよりも扱いやすく、美しい色合いと気泡が多彩な表情を見せることに気がつきました。


さらに、自作のグローリーホールと徐冷炉の試運転を兼ねて、吹きガラスの工程で必ず吹き竿の先に残るカケラをいくつかまとめて溶かして吹いてみます。

竿を付け替えた際に、左側の竿(元の竿)にガラスが残ります。

小さなものですが、必ず出るカケラには再利用のヒントが隠されていました


元々のガラスの文様が混ざり合い、さらに前述の金属箔やガラス棒を組み合わせてみると、ぱっと見ではガラス作品に見えないような面白い作品が出来上がります。それはまるでおばあちゃんの裂織りにそっくり!  様々な色が混ざった見た目も、不要なものを再利用するという概念も、まさに裂織りです。「時の花」と並んで、佐々木俊仁を物語るブランド「裂織りの器」が誕生した瞬間でした。

温かみを感じる不思議な素材感の「裂織りの器」。涼やか、透ける、 といったガラスのイメージを払拭する質感が特徴です


そうして2022年、いよいよ個人工房の溶解炉に火を入れます。

壺をふたつ並べて、工芸用ガラスと建築用板ガラスの両方を溶かせるようにしました。

二つ並んだ壺。自分のスタイルに合わせて自作した、こだわりの溶解炉です


気兼ねなく板ガラスを吹ける環境が整ったので、富山ガラス工房の恩師を介して、高岡市の板ガラス加工メーカー・三芝硝材株式会社を紹介してもらいます。三芝硝材では1日30トンもの板ガラスの端材が出ており、何か役立てることができないかと悩んでいたのです。

板ガラスをアップサイクルさせた、淡いブルーが美しい「Home」シリーズ。日常遣いもしやすそうです


三芝硝材と共同で「SDGsガラスプロジェクト」を立ち上げ、廃棄される運命だった端材をグラスや一輪挿しなどの日用品へと生まれ変わらせることに成功。再生ガラス「Home」の誕生は多くのメディアにも取り上げられ、SDGsの枠組みでも注目されるようになりました。

再生ガラスを塊にして光を当てると気泡が美しく輝くことから、照明素材としての可能性も見えてきました


ルーツを器に織り交ぜて、“佐々木俊仁”だからできた無二の作品


現在は、工芸用ガラスと建築用板ガラスの二刀流で作品作りを行なっています。作業温度の違いを逆手に取ることで、午前中は工芸用ガラスで「時の花」と「裂織りの器」、午後は板ガラスで「Home」を制作する日もあるそう。


そしてふと気がついたのです。

「不要なガラスを自分の手を介して作り替えていくこと…。あれ? これって、あのおばあちゃんの裂織と同じだ!って。

その瞬間、全身に鳥肌が立ち、涙が止まりませんでした。再利用に惹かれていたのは、裂織と同じだからだったんですよね。色々なことが自分の中でつながり、ガラスを始めてから今までのすべてが集約された気がした瞬間でした」

ショップに額装して飾られている、お祖母様の南部裂織。いつでも見えるところに原点を置いています


これまでもガラス作りを楽しんできましたが、この気づきを経た今、「猛烈に楽しい」時間を過ごしているといいます。


「今までの自分にありがとうって言いたいですね。ここ(ショップ)にいると、自分が作ってきたいろんな年代のガラスが並んでいて、悩んだ証を客観的に見ることができます。いつでも原点に戻れる場所です」


「裂織りの器」については、制作スピードやどうやったら画一的なものが作れるか、模索を続けています。


「不要になったカケラを4、5個くっつけて一つの塊にして、金属箔をつけたり縦に色が入るように色ガラス棒をつけたりすると、吹いてみるまでどんなふうになるか、自分でもまったくわからないんです」


予測のつかないものをプロダクトにする難しさ。 しかしその創意工夫こそ、工芸でありアート、そして本質的には究極の民藝とも言えます。そのバランスがより裂織に近づいたようで、すごく気に入っていると話す顔は、充実感とこの先の展開にワクワクする様子に満ちています。

佐々木さんの多彩で笑いの絶えないお話を聞きたい方は、ぜひショップに足を運んでみてくださいね


「自分にしかできないものを作り続けたいと思っています。それが誰かの喜びになるのって、いいですよね。ガラスを通じて誰かと話す時、とても幸せを感じるんですけど、地元で整備士をやっていたら、こんな感覚は得られなかったかなぁって思います」


***


雪への憧れから白い作品しか作らないという沖縄のガラス作家さんに、

「「裂織りの器」にたくさんの色を使うのは、岩手生まれだからでは?」

と指摘されたそうです。 確かに岩手は雪国で、たくさんの色彩にあふれる季節はとても短いのです。これまではその答えを“感覚”に求めてきたけれど、案外“反動”なのかも、と腑に落ちたそうです。逆境に負けない強さやフロンティア精神も北国の人らしいと言えるかもしれません。

裂織のように織りあげられた佐々木さんの様々な要素が作品に影響を与え、無二のオリジナリティを育んでいくのでしょう。今度はどんな織物=ガラスができていくのか、これからもその手わざを追っていきたいと思います。

 

<ショップからひとこと>

富山市ガラス美術館ミュージアムショップでは、富山市在住のガラス作家・佐々木 俊仁さんの作品を、2023年9月1日から11月29日まで期間限定販売しています。

佐々木さんの作品は、富山市ガラス美術館のオープン当初から扱わせていただいており、人気の高い作家のおひとりです。色彩豊かで、軽やかさと存在感のある作品をもっと見てみたい! と思い、展示会のお声掛けしてご快諾いただいたのが去年の11月のこと。それから作品作りをお願いし、このたびの開催にこぎつけました。

佐々木さんの作品作りの様子やガラスに向ける想いに触れていただき、期間限定販売に足を運んでいただけたら嬉しいです。

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