top of page

NEWS

新 着 情 報

新店舗や新商品の情報のほか、各施設の企画展・特別展・イベントやミュージアムショップの新着情報をお届けします。

毎日、水族館や博物館・美術館に通うショップスタッフならではの、旬でレアなお便りもあるかも!? ぜひご覧ください。

青森県立美術館特集その1|絶対見逃せない!青森県立美術館の「奈良美智:The Beginning Place ここから」展

更新日:3月28日

青森県立美術館特集 この冬、青森でアートな旅をしませんか?

【目次】

 

こんにちは。広報担当の大関です。

現在、青森県立美術館では、青森県弘前市出身の美術作家、奈良美智氏の個展「奈良美智: The Beginning Placeここから」(2023年10月14日〜2024年2月25日)が開催されています。観覧したお客様の声をSNSなどで読むと、奈良氏のファンの方はみなさん詩人なのかと思うほど素敵なコメントばかり。そのうちにどうしても私も展覧会を見てみたくなり、11月の終わりに青森を訪ねてきました。


奈良美智氏の個展「奈良美智:The Beginning Placeここから」

美術館の正面エントランスに掲げられた大きなバナー


今回の展覧会は、2012-13年に開催された「君や 僕に ちょっと似ている」展以来の、青森県立美術館としては2回目、およそ10年ぶりの個展です。展示を担当したのは、青森県立美術館のキュレーター(学芸員)・高橋しげみ氏。残念ながら、高橋氏から直接お話を伺うことはできなかったのですが、奈良氏と同じ弘前出身である彼女の想いは、タイトルにも強く現れているとのこと。


「The Beginning Place」とは、奈良氏の創造の「はじまりの場所」としての「故郷」を示唆すると同時に、奈良氏の作品との出会いが生み出す、私たちにとっての「はじまりの場所」も意味しています。

そして「ここから」には、青森が奈良氏のキャリアの始点であるということだけでなく、展覧会を見に来てくれた、とりわけ若い世代に対して、「狭く小さな場所からでも世界に大きく羽ばたける、どこからでも翔べるんだよ」というエールも込めているのだそう。単なる凱旋展ではない、故郷でやる意義を感じるネーミングです。


作品数は約200点、そのうち新作が約20点、日本初公開は15点以上の作品を含む展覧会ですが、巡回展ではなく単館開催。そして開催期間が冬なのは、奈良氏の想いがあってのことだといいます。故郷の雪景色について奈良氏は、

「何もない白で覆われた世界は、自分にとって想像力の源になっている。」

と語っており、観覧客がその雪景色をも体験することを期待して、青森で降雪の季節を含んだ会期になりました。

美術館に来るまでの道、展示室の窓の外、「あおもり犬」や「Miss Forest/森の子」に降り積もる雪もぜひ楽しんで、「はじまりの場所」に想いを馳せてほしい、そんな奈良氏からのメッセージでもあるのです。


2023年2月の美術館の様子

2023年2月の美術館の様子。この雪景色と清廉な空気の中を歩いて、

美術館にたどり着くところから「はじまりの場所」が始まります


奈良氏の旧知のキュレーターである高橋氏が、本展の構想段階で着目したのが、およそ10年前の奈良氏のツイート。

 

子どもの頃の気持ちや、思春期の高揚を決して忘れない。

大人になるために忘れない。

懐古的な感傷ではない。過去を引きずるのでもない。

自分の時間軸に一本の幹を見つけたいのだ。

年月を経て、それでもずっと自分でありつづけるのだ。

 ―奈良美智の2013年5月4日のツイートより


展覧会冒頭にツイートが紹介

展覧会冒頭にツイートが紹介されています


奈良氏は東日本大震災以後、自分史に関わる場所を訪ねてみたり、かつての自作を新たな眼差しで捉え直してみたり、過去との出会いを通じて「自分の時間軸に一本の幹を見つけ」ようとしてきました。

高橋氏は、震災以降から今日に至る約12年の奈良氏の活動を見つめ、さらに40年以上に及ぶ奈良氏の創造の軌跡の中から、「一本の幹を見つけ」ることに焦点を当てて、本展では5つのテーマで展示を構成しています。


1.家

2.積層の時空

3.旅

4.NO WAR

5.ロック喫茶「33 1/3」と小さな共同体


では、展示を見にいきましょう。


1.家

最初は「家」。1980年代の初期の作品が多数展示されています。鋭い眼差しの子供という典型的画風が確立される以前の作品には、新鮮な驚きがあります。


《カッチョのある家》(1979年)

《カッチョのある家》(1979年)


初出展となる《カッチョのある家》(1979年)は、冬の津軽に吹き荒れる暴風雪から家を守るための柵=カッチョが印象的で、その前に佇む割烹着姿の女性の後ろ姿が描かれています。当時、ドイツ留学を控えて処分した(愛知県立芸術大学内にあった画材の再利用を目的とした捨て場に置いた)作品でしたが、予備校講師をしていた奈良氏の教え子である画家・杉戸洋氏が奇跡的にもそれを拾い、大切に保管していたという作品です。


《There is No Place like a Home》(1984年)

There is No Place like a Home》(1984年)


《Dream Time》(1988年)

Dream Time》(1988年)*2023年12月24日まで展示


「家」は奈良氏の作品でよく用いられるモチーフであり、特に赤い三角屋根の家には、幼稚園の頃に引っ越した実家のイメージが重ねられています。それは、一家が憩う和やかな雰囲気のものもあれば、時に燃やされたり、傾いたりと、不穏な空気を漂わせることもあります。

幼き頃の記憶が書き添えられた作品もあり、確かに「ここから」なのだという感銘と共に、描かれ方の変化には「家」を巣立っていく予兆のようなものを感じることもできます。


2.積層の時空

奈良作品には、家のほかにも、動物や女の子など繰り返し描かれている対象がありますが、その表現方法は約40年の活動の中で少しずつ変化しています。特に、東日本大震災以降はそれまでにない傾向が現れ、作品は次第に大型化し、構図は証明写真のように狭まります。


本展のメインビジュアルに使用されている《Midnight Tears》(2023年)は、最新の絵画作品のひとつ。実際に近づいて見てみると、背景の暗闇も、衣服や髪にも、複雑な絵具の重なりが見られ、深い奥行きを感じられます。近年の絵画について「線を絵画につなげることをやめて、色を絵画につなげようとしたのが最近の作品」と奈良氏が語るとおり、色彩の力が最大限に生かされています。


《Midnight Tears》(2023年)

Midnight Tears》(2023年)


《Midnight Tears》の一部

《Midnight Tears》の一部。たくさんの色が重なっているのがわかります


ドローイングの制作でも新たな手法を試みており、古い作品に加筆したり、それらを何枚も重ねて糊付けしたりして、過去の自分との再会と別離の瞬間をレイヤー(積層)に織り込みながら、古いドローイングに新たな生命を吹き込んでいます。段ボールや封筒などの身近な素材も使用されていて、日々の生活が重ねられることへの感謝を表しているように感じました。


使用済みの封筒などに描かれた過去のドローイング

使用済みの封筒などに描かれた過去のドローイングを積み重ねています


コロナ禍の台湾で、検疫中にホテルの部屋で描いたドローイングの数々

コロナ禍の台湾で、検疫中にホテルの部屋で描いたドローイングの数々


3.旅

それまでも、インスピレーションを得るためや展覧会に招かれて、旅をよくしていたという奈良氏ですが、東日本大震災以降はそこに「自分の時間軸に一本の幹を見つける」という目的意識が加わります。

2014年の祖父のゆかりの地であるサハリンへの探訪を皮切りに、北の地への関心が深まり、近年では北海道が創作の主要なフィールドになっています。

2017年に参加した白老町の飛生(とびう)という小さな集落を舞台に開催された「飛生芸術祭2017」では、同地に滞在しながら制作した作品を出品しています。


《トビウ・キッズ》シリーズ(2017年)

《トビウ・キッズ》シリーズ(2017年)


《オホーツク少女島 知床岬》(2020年)

《オホーツク少女島 知床岬》(2020年)


《Ennui Head》(2022年)

Ennui Head》(2022年)


《Ahunrupar》(2023年)

Ahunrupar》(2023年)


飛生で出会った子供達を描いたドローイングや、アイヌ民族の聖地に着想を得て作った塑像など、土地への敬意、歴史への敬意を感じることができます。


4.NO WAR

奈良氏の作品には「反戦」と「音楽」との関係も色濃く伺えます。

小学生の頃から自作の鉱石ラジオでFEN(米軍人向けラジオ放送)を聴き、中学に入るとボブ・ディランなどの音楽にのめり込み、彼らから戦争と暴力に対抗する手段として「音楽」の可能性を学びます。


また、1998年に描いた《No Nukes》や2012年制作の《春少女》は、反原発のデモや集会でプラカードやバナーとして利用されることを公認し、自身のメッセージを伝える活動を行っています。音楽を通じて芽生えた反戦などの政治的問題意識が、震災とその後の社会情勢により表面化するとともに、その思いが変革の潮流を支える「個」にも伝播していくことを物語っています。


反核・反戦をテーマに描かれたドローイング

反核・反戦をテーマに描かれたドローイング。中央左に《No Nukes》(2017年)


平和の祭壇《After of Peace》(2023年)

平和の祭壇《After of Peace》(2023年)


《My Drawing Room》(2004/2021年)

My Drawing Room》(2004/2021年)


《I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME》(2001)の一部

I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME》(2001)の一部。

中にはインターネットで募集した奈良作品モチーフのぬいぐるみが入っている


インスタレーションの細部まで奈良ワールドが全開で、ひとつひとつ見ていたら、思った以上に時間が経っていてびっくり。すべて私物のおもちゃを自らの手で絶妙なセンスとバランスで飾ってあり、さらに壁面にはドローイングも多数飾られ、一番密度が濃く感じた部屋でした。


5.ロック喫茶「33 1/3」と小さな共同体

展示を追うごとに、だんだんと聞こえてきていたロックの調べ。

それはロック喫茶「33 1/3」でかつて流れていた音楽でした。本展での高橋氏の熱意の際たるものが、このロック喫茶「33 1/3」の再現です。

プレス発表で奈良氏は、「高橋氏から“そこ(ロック喫茶)がなければ奈良美智は存在しませんよ”と再現を持ちかけられ、半信半疑だった」というエピソードを披露しましたが、再現してみて初めて、そここそが出発点であることに気がついたと言います。


再現されたロック喫茶「33 1/3」

再現されたロック喫茶「33 1/3」。実際に中に入ることもできます


私もロックは好きですが、奈良氏とは年代が違うので「なんとなく聞いたことがある」という程度なのですが、展覧会全体を包み込むような心地良い調べです(*)。壁面には奈良氏自身のアルバムコレクションが飾られていて、ファンには嬉しい展示です。

*曲名を公開しているのか聞いたところ、問い合わせが多いので公開するかどうかキュレーターが検討中、とのことでした。


奈良氏愛蔵のアルバムコレクション

奈良氏愛蔵のアルバムコレクション


ロック喫茶「JAIL HOUSE 33 1/3」の内部

ロック喫茶JAIL HOUSE 33 1/3」の内部


1977年開店のロック喫茶「JAIL HOUSE 33 1/3」は、奈良氏が「小さな共同体」に最初に関わった場所。仲間とDIYで店舗を作り、そこで語らい、関係を深めたことが、アーティストを志すきっかけになったといいます。近年になって、地方の「小さな共同体」に参加して展覧会やイベントに関わっている奈良氏。気心の知れた仲間と親密な世界を充実させる喜びを知った「はじまりの場所」は、この高校時代のロック喫茶だったのです。


「はじまりの場所」から旅立ち、そして震災を期にふたたび戻ってきた奈良氏の、「ここまで」と「ここから」。それらに通奏低音のように存在する一本の幹を、確かに感じることのできる展覧会でした。

記憶の奥深くに埋まっていた一本の幹の根っこを探り当てた、アーティストとキュレーターの関係性もまた、この展覧会の見どころのひとつのように感じました。キュレーターという職業に憧れている方にもぜひおすすめしたい展覧会です。


*****

 

「雪が降ったらまた見に来ます」とSNSで再訪を誓っていたファンの方たちは、青森の積雪のニュースを聞いて、早くも旅程を組んでいるのではないでしょうか。「何時間でも、何回でも見たい」という言葉を、気づけば私も口にしていました。まるでお気に入りの曲に出会ったように、エンドレスでリピートをかけるような気持ちです。


美術館の方にお伺いしたところ、1月の連休明けから月末までぐらいが、比較的空いている時期とのこと。奈良氏の展覧会に足を運んだことがない、という方も、今冬に青森を旅するなら、ぜひ旅程に組み込んでほしいです。アーティストの目を通して青森を知ることが、旅を何倍にも何層にも鮮やかにしてくれます。ぜひ、真っ白な雪に覆われた「はじまりの場所」を訪ねてみませんか。


 

展覧会の後はミュージアムショップへ

ミュージアムショップでは、青森ゆかりのアーティストのグッズをはじめ、青森ならではの雑貨や小物、食品などを取り揃えています。特に「奈良美智: The Beginning Place ここから」会期中は、奈良氏のグッズが所狭しと並んでおり、お財布の紐を締めるのが大変! 今回の展覧会開催にあわせて発売したスノードームをはじめ、人気商品の貯金箱やポスター、ポストカード、マスキングテープ、クリアファイル、バッジなどの他、図録等の書籍もラインナップされています。観覧の記念となるグッズを探しに、足を運んでみてください。


ミュージアムショップ内観

ミュージアムショップ内観


展覧会概要「奈良美智The Beginning Place ここから」

会場  :青森県立美術館

会期  :2023年10月14日(土)〜2024年2月25日(日)

休館日 :10/23(月)、11/13(月)、27(月)、12/11(月)、25(月)−2024.1/1(月・元日)、

     9(火)、22(月)、2/13(火)

開館時間:9:30-17:00(入館は16:30まで)

     10/21(土)、11/18(土)、12/9(土)、2024年1/20(土)、2/17(土)はナイトミュージ

     アムにつき20:00まで開館(入館は19:30まで)

企画展料金:一般1,500円、高大生1,000円、小中学生無料


青森県立美術館ホームページ|https://www.aomori-museum.jp

青森県立美術館ミュージアムショップ|https://www.aomori-museum.shop

青森県立美術館ミュージアムショップinstagram|https://www.instagram.com/aomorims/

bottom of page