ウポポイ開業5周年特集その2|アイヌ文化を学ぶなら、まずは国立アイヌ民族博物館へ!
- 広報:大関
- 9月5日
- 読了時間: 10分
更新日:1 日前
今年2025年は、ウポポイ(民族共生象徴空間)の開業5周年の節目の年。コロナ禍でのオープンから5年の時を経て、多くの旅行者や修学旅行生、インバウンドがアイヌ文化に触れる場所として賑わっています。

豊かな植栽に彩られる国立アイヌ民族博物館
当社ではウポポイ内にある国立アイヌ民族博物館のミュージアムショップおよびエントランス棟にあるショップ(お土産店)の「ニエプイ」を、開業当初より運営させていただいています。
開業5周年特集その2では、アイヌ民族の歴史と文化を主題にした国立アイヌ民族博物館の基本展示をご紹介します。
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<ウポポイ開業5周年特集ラインナップ>
その2 アイヌ文化を学ぶなら、まずは国立アイヌ民族博物館へ!(いまココ)
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手わざを訪ねてVol.10 河岸麗子さん/編物作家
手わざを訪ねてVol.11 山田祐治さん/木彫り作家
手わざを訪ねてVol.12 岡田育子さん/刺繍作家
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「私たち」の視点で学ぶアイヌ民族の歴史・文化
イランカラプテ(挨拶の言葉)。広報担当の大関です。
ウポポイの中核施設である国立アイヌ民族博物館は、アイヌ民族に焦点を当てた日本初の、そして日本最北の国立博物館です。体系的にアイヌ文化について学べるだけでなく、今を生きるアイヌ民族についての理解を深める展示になっており、ウポポイに来たならぜひ最初に見て欲しい博物館です。
しかも、入館のために別途チケットがいるわけではなく、ウポポイの入場券で観覧可能!ここで学んだことが、その後の園内の体験などで生きた知識になり、認識と理解につながっていく、そうした流れでウポポイを楽しんでいただけたらと思います。

(左)アイヌ文化を紹介するプログラムを上映するシアター(写真提供:(公財)アイヌ民族文化財団)
(右)手荷物を預けられるコインロッカー
博物館の入口を入ると、右手にシアターと手荷物などを預けられるコインロッカーがあります。
シアターは3本のプログラムがあり(2025年8月現在)、9時30分から16時30分まで、毎時30分に上映されています。アイヌ文化に触れるのが初めての方なら「アイヌの歴史と文化」がおすすめ。人類が日本列島に到達したところからのアイヌ民族の歴史と文化を解説します。また、「世界が注目したアイヌの技」はヨーロッパとアメリカの博物館に収蔵されている約1万点ものアイヌ民族資料を紹介。海外でのアイヌ文化の評価を知ることができる内容で、私はとても刺激を受けました。
上映前の注意案内も、アイヌ語の音声に触れる貴重な機会。ぜひ展示鑑賞の合間に時間を合わせてご覧になってください。
展示室は2階にあるので、入口左手のエスカレーターで上がります。目の前に開けるのはガラス張りのパノラミックロビー。ウポポイとポロト湖、その奥の山並みまで一枚絵のような景色が広がります。白老の四季を切り取る絶景ポイントは、フォトスポットとしても人気です。

絶景広がるパノラミックロビー
「イアシケウク(導入展示)」では歩く速度に合わせて映像が映し出され、様々な民族の人々がそれぞれの言語で挨拶をしてくれます。
日本は単一民族国家と考えられがちですが、実際にはいろいろな民族の人が暮らしています。日本語を話す和人も多くの民族の中の一民族であることを示すとともに、アイヌ民族の日常も独自の言語と文化があることを汲み取れる映像です。多様性を感覚的に訴える導入展示は、日本唯一のアイヌの国立博物館としての意義を感じます。

色々な民族の人の挨拶を受けたあと、ウポポイに関わるアイヌ民族の方々が
アイヌ民族の衣装をまとい、踊りや歌を披露しながら展示室の入り口へと誘います
展示室は「私たち」というアイヌ民族の視点で語る6つのテーマで構成されています。
中央には円形の「アエキルシ(プラザ展示)」があり、14のケースに6つのテーマの中から選りすぐりの代表的資料を展示しています。

展示室の入り口に案内図も掲示されています
プラザ展示を見るだけでもアイヌ文化の概略に触れることができ、そこから時間や興味に応じて周囲のテーマ展示を見ることで知識を深めることができます。パックツアーなど時間に限りのある訪問でも、こうした方式になっていると偏りなく見ることができて嬉しいですね。

仕切りのない、大きな一つの展示室の中央にプラザ展示と6つのテーマ展示を配置
プラザ展示の中央にあるのが6つのテーマのうちのひとつ、アイヌ語の仕組みやアイヌ語由来の地名などを音声と映像で紹介する「イタク(私たちのことば)」。囲炉裏を囲んで会話したり、灰に絵を描いたりしながら、親から子へと口伝えで語り継がれてきた口承文芸を再現する映像が流れ、こんなふうに文化が受け継がれてきたんだなと体感することができます。
漠然と「アイヌ語は多少は日本語と似ているのかな」と思っていましたが、展示の案内をしてくださった研究員の方によると、まったく異なる言語なので勉強しない限り理解はできないとのこと。人気漫画の影響でいくつかの単語は知っていましたが、聞けば聞くほど言語の成り立ちに興味が湧きました。

「イタク(私たちのことば)」コーナー
残りのテーマ展示は展示室を取り囲むように配置されています。順路は自由ですが、左手からぐるりと右まわりに見るのがおすすめです。
「イノミ(私たちの世界)」では、儀礼の道具などを通し、すべてのものにラマツ(霊魂)が宿り、その中で重要な役割をもつものをカムイと呼ぶとするアイヌ民族の世界観を紐解きます。自然とどう向き合うか、死をどう捉えているかなどとともに、刺繍や木彫りなど手仕事の優れた芸術性にも触れることができます。
絹や藍染、漆製品など、和人との交易でもたらされたものも多く展示されています。例えば女性の首飾り(タマサイ)には、釘隠しや刀の鍔が用いられていたりします。本来の用途から意匠の美しさだけを取り出し、装身具に転用しているところに美的センスを感じます。家紋もデザインのひとつとして木彫りなどに取り入れられています。

(左上)漆塗りの椀とイクパスイ。神や先祖に酒などの供物を捧げる際に使う
(左下)葵の紋がデザインされたタクネプイコロ(短い宝刀)
(右)女性の装身具のタマサイは大ぶりで彩り豊か

(左)高さ約6mの「クマつなぎ杭」と儀礼の飾りを施された仔熊の剥製
(中)様々なカムイに捧げられるイナウ
(右)イオマンテ(熊送りの儀礼)に使われる各地方の花矢
「ウレシパ(私たちのくらし)」は、衣食住や人の一生、音楽や舞踊などアイヌ文化の特色や地域差を紹介。文化は今も続いているからこそ、展示品は伝統的な道具ばかりではなく、新しく作られた資料も展示しています。そして、それらの文化継承に携わる現在の人々についてもスポットを当てています。研究員さんは、現代を生きるアイヌの方達についての理解が進むことが大切だと話されていました。博物館というと、昔のものやとうに無くなった文化を学ぶ場と捉えがちですが、民族博物館は生きた民族文化を学ぶ場でもあることに気付かされました。

興味深かった、アイヌ民族の一生をモノで解説するコーナー

(左上)木や草の繊維を用いた織物や編み物を紹介
(左下)伝統的なチセ(家屋)の神窓とゴザ
(右)伝統的な弦楽器「トンコリ」
「ウパシクマ(私たちの歴史)」は、約3万年前に北海道に人類が住み始めた頃から2020年の開館時までのアイヌ民族の歴史を紹介しています。土器や石器に始まり、古文書や法令文書、そしてアイヌ民族が自らを研究した書籍や雑誌などが展示されています。また、アイヌ民族は北海道だけに住んでいるわけではなく、樺太や千島にもいることや中国やロシアとも密接な関係があることなど、時間軸だけでなく、地理的広がりでも歴史を見ていく視野を学べます。

アイヌ民族の歴史を日本史の時代区分と比較しながら学べる展示です
アイヌの人々が携わる仕事を切り口にした「ネプキ(私たちのしごと)」も、国立アイヌ民族博物館ならではのユニークな展示です。古くは狩猟・漁撈・採集・農耕などの伝統的なしごと、明治以降の厳しい時代の流れの中でのしごと、そして現代の国内外で活躍中の人々のしごと。時代の移り変わりに応じて変化するしごとを紹介します。とくに現代のアイヌ民族の仕事を紹介するパネルコーナーは多方面に渡るもので、ルーツの捉え方をはじめ、努力と才能の元に様々な分野で活躍するドキュメンタリーとして楽しむことができました。

(左)伝統的な仕事やその道具を展示
(右上)キテ(銛)と、マレク(突鉤) (右下)杵と臼

国内外で活躍される現代のアイヌ民族の仕事を紹介するコーナー
6つ目のテーマは視点を世界へと導く「ウコアプカシ(私たちの交流)」です。歴史の中でアイヌは和人だけでなく、東北アジアの周辺諸民族とも広く交易を行ってきました。また近年では、世界各地の先住民族とも交流を深めています。過去より未来、日本より世界へと一層広い視野のなかでアイヌ文化を捉えることで、その優れた独自性が見えてくるのでしょう。特に今からアイヌ文化を学ぶ若い世代には、グローバルな視点が重要だと感じました。

(左)海や大きな河川で交通・運搬の手段として使っていた舟「イタオマチプ」
(右)中国製の絹織物である蝦夷錦(サンタン服)。中国から樺太を通る北回りのサンタン交易でもたらされたもの
展示室にはこの6つのテーマの他に、イケレウシ「テンパテンパ」(探究展示「テンパテンパ」)があります。テンパテンパはアイヌ語で「さわってね」の意味で、ハンズオン展示が3か所設けられています。鮭の皮でできた靴など普段あまり触れることのできないものこそ、触ってみたらわかることがありますし、母から娘へと代々大切に受け継がれる宝物であるタマサイ(首飾)のコーナーでは、大きな玉を模したマグネットを使って好きなタマサイを作り、胸に当てて写真を撮ることもできます。触れて、作って、楽しむ行為が、学びをよりリアルな記憶に変えてくれる効果を生みます。

3か所あるイケレウシ「テンパテンパ」(探究展示「テンパテンパ」)
アイヌ民族がどういう歴史を辿り、その中でどのような生活を送り文化を育んできたのか、自分なりに学ぶことができ、とても有意義な時間を過ごすことができました。この理解が正しいかどうかはわかりませんが、これからもアイヌの人々とその文化に触れていきたいと思いました。
皆さんはどう感じるでしょうか? ぜひじっくり展示を楽しんで欲しいと思います。
展示室を出てエレベーターを降りると、目の前にミュージアムショップがあり、その奥にライブラリがあります。ライブラリには、アイヌ民族をはじめ世界の先住民族についての書籍・雑誌・絵本・写真集・図鑑・学術書など約3万冊の蔵書があり、ウポポイに入場された方は無料で利用することができます。展示を見て、もう少し深掘りしたくなった時は、ここで調べ物をしてみるのも良いでしょう。

北海道産の木材を使った温かみのあるライブラリ。つい長居してしまいそうです
ミュージアムショップには、展示物をモチーフとしたオリジナルのミュージアムグッズや、ウポポイPRキャラクターのトゥレッポんグッズ、また木彫りや刺繍、編み物などアイヌ民族の手仕事の作品、道産のお菓子など様々な商品が並びます。ムックリという楽器やアイヌ文様を取り入れたグッズは特に人気。アイヌ文化に触れた感動をグッズに託してお持ち帰りになりたいというお客様の気持ちに応える商品を取り揃えています。

ミュージアムショップ外観

アイヌ民族の伝統的な手仕事や楽器、アイヌ文様を施した日用品などを取り揃えています

書籍やトゥレッポんグッズも豊富にラインナップ。ドリンクも販売しており、窓辺の座席でひとやすみもOK

第10回特別展示 「開館5周年記念 ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション」
に際して発売された新グッズ。詳細は別記事でご紹介します
7月5日から開催している特別展示「ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション」に際して、さらに新商品のオリジナルグッズも続々登場しています。ぜひお気に入りを探してみてくださいね。
次回は特別展示「ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション」にフォーカスします。
ウポポイ(民族共生象徴空間)
北海道白老郡白老町若草町2-3
TEL:0144-82-3914
入園料:大人 1,200円、高校生 600円、中学生以下 無料
開園時間:開園は9時、閉園は時期によって異なるので、ウェブサイトで要確認
⚫︎ウポポイ入場券で国立アイヌ民族博物館の観覧可能





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