ウポポイ開業5周年特集その3|特別展示「ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション」の見どころ紹介
- 広報:大関
- 9月12日
- 読了時間: 10分
今年2025年は、ウポポイ(民族共生象徴空間)の開業5周年の節目の年。コロナ禍でのオープンから5年の時を経て、多くの旅行者や修学旅行生、インバウンドがアイヌ文化に触れる場所として賑わっています。

国立アイヌ民族博物館外観
当社ではウポポイ内にある国立アイヌ民族博物館のミュージアムショップおよびエントランス棟にあるショップ(お土産店)の「ニエプイ」を、開業当初より運営させていただいています。
開業5周年特集その3では、特別展示「開館5周年記念 ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション」の見どころをご紹介します。
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<ウポポイ開業5周年特集ラインナップ>
その3 特別展示「ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション」の見どころ紹介(いまココ)
その4 歌・踊り・手仕事など、様々な切り口でアイヌ文化に触れて、学びを深めよう!
その5 ウィーン展にちなんだミュージアムグッズ新商品が続々登場!
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手わざを訪ねてVol.10 河岸麗子さん/編物作家
手わざを訪ねてVol.11 山田祐治さん/木彫り作家
手わざを訪ねてVol.12 岡田育子さん/刺繍作家
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ウィーン万博とアイヌ・コレクションの関係性とは?
イランカラプテ(挨拶の言葉)。広報担当の大関です。
7月5日より、国立アイヌ民族博物館では、第10回特別展示「開館5周年記念 ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション」が開催されています。

150年ぶりに北海道に戻ってくる資料もあり、見どころ満載です
第10回特別展示「開館5周年記念 ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション」
前期:2025年7月5日〜8月31日
後期:2025年9月13日〜11月16日
まず「ウィーン万博とアイヌ・コレクションにどんな関係があるの?」とお思いになる方、多いのでは無いでしょうか?私もうまく結びつかず、不思議な取り合わせに首を捻りましたが、実はこのようないきさつがあります。
1873年のウィーン万国博覧会は、日本が初めて公式に参加した万博です。明治政府は日本各地から万博開催に合わせて資料を収集し、この時にアイヌ民族資料も北海道開拓使や博覧会事務局によって北海道の「固有」の物産として、体系的に集められました。

展示室壁面にはウィーン万博の写真が飾られており、当時の様子を知ることができます
万博終了後、それらの資料の一部がベルリン国立博物館群民族学博物館に寄贈されました。ベルリン国立博物館群民族学博物館のアイヌ・コレクションは約1,000点にも及ぶ豊富なもので、多くはウィーン万博後の19世紀に収蔵されたものです。当初、国立アイヌ民族博物館とベルリン国立博物館群民族学博物館の共同プロジェクトは、これらのアイヌ・コレクション全体を総合的に調査し展覧会を行うことが目的でしたが、2024年12月の意見交換時に、2025年の大阪・関西万博に合わせて「万博」をキーワードにした展覧会の開催を最優先事項として推し進めることになりました。
ということで本展では、膨大な資料の中から1873年のウィーン万博に出品された資料に焦点を当て、1874年にウィーン万博日本委員会からベルリン国立博物館群民族学博物館に寄贈された66点の中からの31点、加えて別途ベルリン国立博物館群民族学博物館が収集したアイヌ・コレクション11点の、計42点を借り受け、展示しています。

保存状態がよく、150年前のものとは思えない収蔵品が並びます
ウィーン万博をきっかけに、海を渡ってアイヌ文化は世界に紹介され、150年後の万博イヤーに故郷へ凱旋を果たしたベルリン国立博物館群民族学博物館のアイヌ・コレクション。中にはこの1点しか類例が残されていない資料もあるとのことで、見逃せない展覧会です。
しかも今回の展覧会は、開館5周年記念の特別展示ということで観覧無料!
通常は別途観覧料金が定められ、チケットを購入する必要があるのですが、今回は必要ありません。入園さえすれば、貴重なアイヌ・コレクションを見ることができます。
150年ぶりに帰還したアイヌコレクションのほか、美術工芸品も多数展示
それではさっそく展示を見ていきましょう。
1章 ウィーン万国博覧会
お客様をまず出迎えるのは、高さ約2mもある有田焼の花瓶。精細な模様、美しいフォルムで、圧倒的な存在感を放ちます。

有田焼の大きな花瓶を中心に、華やかな色彩の焼き物が、入り口を飾ります
出品物の選定にはお雇い外国人や外交官の意見が重用され、「未熟な工業製品より日本の技術に裏打ちされた工芸品を出すべき」「いくつか大きな出品物を出すべき」などのアドバイスに基づき、有田焼や九谷焼などの華やかな染付けや鼈甲、七宝、染織などの美術工芸品から名古屋城の金鯱や鎌倉大仏の張子などの大型作品まで、バラエティに富んだ作品が選ばれました。これらはヨーロッパの人々に大きな驚きを与えるとともに高い評価を得て、ジャポニスム大流行の契機となりました。

ウィーン万博に出品された頭巾(コンチ)、鉢巻、小物入れ(カロプ)
(ベルリン国立博物館群民族学博物館所蔵)

同時期に収集された笠(イナウカサ)、玩具、木皿。(ベルリン国立博物館群民族学博物館所蔵)
笠は世界でも数点しか類例がない貴重なもの
ベルリン国立博物館群民族学博物館所蔵のアイヌ・コレクションは、経年を感じさせない保存状態の良さ!傷みや色褪せもなく、大切に保管されてきたことがよくわかる品々に見入ってしまいます。
ドイツでは19世紀後半から20世紀にかけて、外交官や医師、研究者や商社などが、詳細な採集記録とともにアイヌ民族資料を収集しており、ドイツ各所の博物館に収蔵されています。アイヌ文化が時代の波の中で大きく変化する時期に収集されていることで、地域性や時代性を知る上で貴重なものとされています。
2章 ウィーン万国博覧会の系譜 ー日本の博覧会と博物館のはじまりー
日本では、ウィーン万博参加のもう一つの目的として、国内における学芸の進歩のための日本初の博物館構想がありました。江戸時代の好事家たちが品物を持ち寄り品評する「物産会」から脱却し、国家主導の博覧会開催へという系譜の先に、恒久的な展示施設である博物館の設置を目指していたのです。

東京国立博物館の礎となった、湯島聖堂博覧会の展示物が描かれた「古今珎物集覧」
(1972年 国立アイヌ民族博物館所蔵)
そのため、ウィーン万博のための資料は必ず2点収集され、ひとつはウィーンへ、もうひとつは国内で博物館を設立する際の資料として保管され、東京国立博物館に収蔵(一部はその後奈良国立博物館に寄贈)されました。それゆえ本展では、東京国立博物館や奈良国立博物館所蔵のアイヌ民族資料も展示されています。
3章 ウィーン万国博覧会の前夜 ーアイヌ・コレクションから見る博覧会への出品ー
明治時代は、知識人の好古趣味としてはじまったアイヌ・コレクションが、地域性や用途などを意識して体系的に収集して展示するという「伝統的なアイヌ文化」のパッケージが作られていく時代でもありました。個人の趣味に基づく乱雑な収集ではなく、制作年代・制作地・製作者をきちんと記録に留めた博物資料としてのアイヌ・コレクションが生まれていきます。

名工と謳われたシタエホリ(シタヱーパレ)の作品コーナー(東京国立博物館所蔵)

志村弥十郎(シャンゲ)という男性が着た衣服(木綿)。
同じ衣服を着ていると思われる写真も展示されている(東京国立博物館所蔵)
4章 ウィーン博覧会のあと ー樺太千島交換条約とアイヌ・コレクションー
1875年、明治政府とロシアが樺太・千島交換条約を調印したことにより国境が定められ、その地に居住していた樺太アイヌやアリュートなどが強制的に移住させられるなど、劇的な変化を強いられることになりました。
困難な時代の中で居住地を変えざるを得なかったことにより、奇しくも開拓使によりアイヌを含む北方民族のコレクションが形成され、博物館で陳列されるようになります。

樺太アイヌやウィルタ、ニヴフの衣類や日用品(国立アイヌ民族博物館所蔵)

カムチャッカ半島の先住民族であるカムチャダールの生活用具(市立函館博物館所蔵)
博物館の財産とも言える「コレクション」がどのように形成されるのか、その定義や成り立ち、時代性などをアイヌの民族資料を通して学ぶこともできるので、博物館好きにもおすすめの本展示。
150年ぶりに故郷に一時帰還した貴重な資料をぜひ直に、見ていただきたいと思います。時を経てきた本物の資料の持つ迫力を感じられます。
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本展開催に先立ち、国立アイヌ民族博物館とベルリン国立博物館群民族学博物館は、アイヌ文化の振興と普及に寄与することを目的として、人材交流、共同調査研究、展覧会の開催等で協働するため、連携協定に調印しました。この連携協定の締結を記念し、特別展示初日にはオープニングイベント記念講演会および調印式が行われました。

右からラース・クリスティアン・コッホ氏(ベルリン国立博物館群民族学博物館館長)、
佐々木史郎氏(国立アイヌ民族博物館名誉館長)、野本正博氏(国立アイヌ民族博物館館長)
国立アイヌ民族博物館名誉館長の佐々木史郎氏、同館館長の野本正博氏と、ベルリン国立博物館群民族学博物館館長のラース・クリスティアン・コッホ氏、同館東アジアおよび北アジア担当学芸員のアンリエット・ラヴォー・ヴレクール氏の4名が参加され、今回の展示の意義や見どころ、また共同プロジェクトの目的などについて話されました。

アンリエット・ラヴォー・ヴレクール氏(ベルリン東アジアおよび北アジア担当学芸員)
過去3年間で30の民族と40のプロジェクトを実施しているというベルリン国立博物館群民族学博物館は、共同調査研究のベテランでもあります。協定を結びデータベースを共有することで、収蔵品そのものは増えなくても、資料に関する知識を増やすことができるなどの利点のほか、それを活用し、資料がどのように作られたのかを記録から学ぶことで、先住民族のコミュニティが制作技法を取り戻すことができたという例をお話しくださいました。
アイヌ民族においても、共同作業を行うことで、失われた情報が返還されることが期待できるとのこと。北海道や樺太、千島ではすでに失われてしまった資料や情報が、遠くヨーロッパで大切に保管・研究され、再び知識や技能が還元される奇跡。民族学研究がどのように行われ、どのように役立つのか、具体的なプロセスを研究者から聞くことができ、興味深い体験でした。これからの連携協定により、多くの資料の背景が読み取られ、解明され、取り戻されていくことを考えると、とても楽しみですね。
展覧会図録とオリジナルグッズ、好評発売中

ミュージアムショップおよびオンラインショップでは、特別展示「ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション」の図録を販売中です。前期・後期に展示される資料すべてに学芸員解説が付き、展示作品だけでなく、時代背景までよく掴める内容です。
また、貴重な資料をモチーフにした、ポストカードやブックマーク、ノート、クリアファイル、チケットファイルも販売中。後期にはさらにグッズが増える予定です。見学の後に、そしてインターネットでも、ぜひ図録とグッズをお求めくださいませ。
オンラインショップ:https://ainu-upopoy-museum.shop
ウポポイ(民族共生象徴空間)
北海道白老郡白老町若草町2-3
TEL:0144-82-3914
入園料:大人 1,200円、高校生 600円、中学生以下 無料
開園時間:開園は9時、閉園は時期によって異なるので、ウェブサイトで要確認
⚫︎ウポポイ入場券で、国立アイヌ民族博物館の基本展示および
特別展示「開館5周年記念 ウィーン万国博覧会とアイヌ・コレクション」の観覧可能
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