【手わざを訪ねて】Vol.11 河岸麗子さん/編み物作家「身近な素材で編み物の技法を伝える」
- 広報:大関
- 1月21日
- 読了時間: 16分
更新日:3 日前
当社運営のミュージアムショップでお取り扱いさせていただいている作家さん、職人さんの手仕事にふれる読みものです。
開館5周年を迎えた国立アイヌ民族博物館のミュージアムショップでは、アイヌ工芸作家さんの作品を多数お取り扱いさせていただいています。木彫りや刺繍、編み物、楽器や籠など、温かみと手間が感じられる作品が並び、多くのお客様にアイヌ文化に触れた思い出として、お買い求めいただいています。

アイヌ文様を鮮やかな糸で編んだネックレスやストラップ、ペットボトルホルダーも人気の商品です。今回は、アイヌ文様の編み物作家である河岸麗子さんに、編み物の文様や作り方、素材などのお話をお聞きしました。
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<アイヌ工芸作家 インタビュー>
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<ウポポイ開業5周年特集ラインナップ>
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ーいつごろから編物を始めたのですか?
私は元々、ウポポイができる前にこの場所にあった旧アイヌ民族博物館に21年間勤めていたんです。そこで、女性の手しごと「縫う」「織る」「編む」全般を担当していました。伝統的な手法で衣服を縫ったり、織ったり、刀掛けを編んだりという、アイヌ民族の「女性の手しごと」を仕事にしていた、ということですね。
ー博物館に勤めてから、技術を身につけたのですか?
そうです。仕事として先輩から教わりました。
最初は他の部署にいたんですが、上司に手しごとの部署に行きたいってずっと言い続けて、たまたま定年で辞める方がいて、移ることができました。
そもそも手工芸が好きで普段からいろいろなものを作っていましたし、元の部署でも博物館の仕事はとても好きだったので、念願叶っての移動はとても嬉しかったです。

ーいま作られている作品も、伝統的な編み方で作られているんですか?
博物館では本格的な「女性の手しごと」を担当していましたので、例えばゴザを編むとか、着物を縫うといったことを、木の皮の繊維などの伝統的な素材を用いて作っていました。
いま私が作っているもの、例えばこれは、エムシアツ(刀掛け帯)の編み方で作ったネックレスです。
男性が首から儀礼用の刀を下げるためのエムシアツですが、本来はこの中に芯としてシナノキを使います。でもシナノキは素材として市販されているわけではないので、簡単には手に入りません。勝手に人の山に入って切ってくるわけには行かないじゃない? 捕まってしまうから(笑)。
でも、材料が手に入らないからといって、遺さなくていいのかと考えた時に、今すぐに、誰でも手に入る材料を使えば、編み方は残すことができるんじゃないかって考えたんです。私、編み方重視なんです(笑)。だから、編み方を伝えるために始めたのがこれらの作品ですね。

ーシナノキは身近に生えている木なんですか?
いいえ、市街地には生えない山の木です。しかも白老にはあまり生えません。だから旧アイヌ民族博物館の仕事をしている時には、日高や平取の山まで許可をもらって切りに行っていました。
エムシアツに使うのはシナノキと決まっているんです。作るものによって使う木が変わってくるので、例えば着物だったらオヒョウを使います。
ーシナノキはどんなふうに加工するんですか?
シナノキの外皮をはがした下にある内皮の部分を使います。皮を剥がして水につけると、一枚一枚繊維が剥がれてくるんです。これを使います。良い木だと1週間ぐらいで剥がれてきますが、状態の悪い木だと何週間もかかります。ですのでエムシアツを作る時は、水晒ししているところをまめに見に行って、良い感じに皮が剥がれてきたところで使うようにしています。皮を乾かして、細く割いてロープ状のものを作って巻いて、それを中の芯にしています。縦糸も横糸も中の芯も、すべてシナノキでできています。

昔からそうやって作っていたけれど、今は簡単にはシナノキが手に入らない。手に入らないモノを求めても仕方ないし、だからといってそれで諦めてしまったら一般に伝わっていかず、技術が遺らなくなってしまう。だから、身近にある誰でも手に入る材料で伝えられないかなと思ったのが、今の編み物作家としての活動の始まりです。
ー材料よりも編み方に重きを置いて、手法を遺す活動をされているわけですね。模様のデザインはご自身で書かれるんですか? 自由にデザインするのでしょうか?
そうですね、私の場合は完全に自由です。人は模様に意味を求めがちですけれど、私自身はデザインとして起こしています。意味のあるものを形作っているわけではないです。でもずっと作っていると飽きてくるんですよね(笑)。ですので、また新しい図案を描いて、どんどんデザインが増えていって。
編み物のデザインは縦糸の本数にもよりますね。これは10本ですが、こっちは8本、これは14本。作りたいものの幅に合わせてデザインを起こします。
ただね、カワイイのが私は作れないの。けっこう渋めのが多くて(笑)。

ーそうですか? 色鮮やかでとても素敵です。作品では何の糸を使っているんですか?
本来の正式なエムシアツの場合は、縦糸・横糸は染めていたんでしょうか?
今の私の作品は、市販のレース糸を使っています。
正式なエムシアツの場合、糸を染めるというのは最近の話で、昔は同じシナノキでも木それぞれの色の違いを生かして、色の濃い薄いを作り手がうまく組み合わせて模様を作り出していたんだと思います。伝統的な文様というと、一筆書きの文様が多いですね。アイヌは文字を持たなかったので、囲炉裏の灰で絵を描いて覚えていました。
アイヌの人の記憶力は抜群だったといわれています。文字が無いのは生活の中で必要が無かったからなんですよね。集落で暮らしていて、隣近所で口頭で伝達するだけで事足りたんです。浜辺の砂や囲炉裏の灰に絵を描いて親から子に伝える。そんな風にして必要なことは伝えてきたんです。
ーこの編み方を記憶だけで再現できるのはすごいですよね。地域ごとのモチーフなどはありますか?

模様は親から子へ伝承されていくものです。何かをイメージして作るということがあったかどうかはわからないですね。博物館で複製品を作ってきた限りでは、何かのモチーフをイメージしているという印象は受けなかったです。斜めに行って戻って下に行っての繰り返しです。地域でよく使われる模様、とかもないですね。地方差はないです。とにかく斜めに降りるのが好き。
でも、自分の編み方と隣の家の編み方は違うものです。模様も編み方も家に伝わるものであり工房製ではないから、アイヌ文様はこういう決まりがあります、と言い切ることはできません。アイヌのものに関して決めつけや否定をしてはいけないと思っています。
博物館勤務時代に複製のために多くの収蔵品を見せてもらいました。実物を見ると、本当に一つ一つ全部違うんです。複製は収蔵品の通りに作らないといけないので、実物の作り方を細かに観察します。すると一枚たりとも同じものはない。そのことを学びました。
ところで私の作品のこの縦糸の材料、何だかわかりますか? 見たことあると思うんですよ。
ーこれは、、、え?ええっ!これってもしかして、あの、事務に使う綴り紐ですか?
そう、書類を束ねる時に使う、事務用の綴り紐。それと市販のレース糸。これなら誰でも、どこでも、手に入るでしょ? 博物館で展示する複製品ではなく、編み方を伝えるための普及品だから、誰もがはじめてみようかなと思える素材を使っています。
編み物講座などで教えてもいますが、個人的に作って楽しむだけなら100円ショップで手に入る材料でも十分ですよってお話ししています。

ーなるほど。材料が高いからとか、手に入らないからといってやらないより、身近な素材でいいからやってみるということですね。
だって極端な話、もしもシナノキが手に入っても、編み方がわからなかったら編み物を作ることはできないでしょ。技法さえ遺ればどうにでもなると思ってやっています。
綴り紐でできているってわかった瞬間「へぇ、そんな材料でもできるんだ!」ってなるでしょ?(笑)
ーそのお考えはすごく潔いですし、素晴らしいと思います。そして綴り紐! 安価ですし、誰でもどこでも手に入りますよね。これなら私でもできるかも?って思いました。
高価だったり希少な材料だと作りたくてもなかなか挑戦できないけれど、身近にある材料でできるならやってみようかなと思えるでしょ。それに自分で作れるようになると、自分の欲しいものが作れるじゃない? 講座で教えに行くと、あとで生徒さんから「ペットの首輪を作りました」なんて知らせが来て。アイヌ文様のグッズとして市販されていないけれど欲しい、というものを自分で作れるのは楽しいですよね。
それにね、エムシアツ自体は男性の持ち物なんです。儀礼の際に身につけるもので、なかなか女性は手に取ってみることのできないものです。その技法を使って、現代的なもの、日常的に使えるもの、誰でも手に取れるものを作ろうと思って始めた、というのもあります。

ー男性しか身につけないものを、女性のアクセサリーに、というのもおもしろいですね。女性の手しごとの風習として、好きな人のために作ってプレゼントする、といったことはあったのでしょうか?
好きな人、というよりは、着物に関して言えば、ご主人のものを作ります。布がとても貴重でしたので、布が手に入れば自分や子供のものよりもまず、ご主人の着物を作ります。儀式の時は観客に対して背中を向けているので、その背中の刺繍や貼り付け(アップリケ)による装飾は、奥さんの腕の見せどころだったと言われています。
ところで、織り物と編み物の違いってわかります?
ー……そう聞かれると、わからないです。
縦糸が張っているかぶら下がっているか、の違いです。
編み物の縦糸はぶら下がっているだけ。縦糸を、手前と奥の横糸で挟んで編みます。私は爪で押さえるだけですが、人によってはナイフの背でトントンと叩いて、目を詰めたりします。
ーぶら下がっている、ということは、何かに引っ掛けて編んでいるんですか?
昔は丸太に穴を開けてそこに枝を挿して、その枝に引っ掛けて編んだの。私はいまもそのやり方。丸太に挿すのにちょうどいい形の枝を見つけたら、切ってきて使っています。だから道を歩いてもしょっちゅう枝ばかり見ています(笑)。なかなかちょうど良い形の枝って少ないのよ。
昔はこうしたものが道具でした、って話すために、丸太に枝を挿したものを講座では持っていくけれど、今、実際に家でやるなら、どこかにS字フックをひっかけて、縦糸がばらけないようにクリップで押さえて編めばできます。道具も本当に身近なものでできるんです。

そもそも、あまり編み物している姿を見たことがないと思うんですよ。昨年6月に、大阪・関西万博でアイヌ民族の工芸品展と手仕事の実演販売が行われまして、私も参加したんです。そしたら多くの方が「アイヌにも編み物があるんですね」と興味を持ってくださったんです。で、作るところも見てみたいというので実演しましたら、手で編むんですか?って驚かれていました。
ミサンガに似ているっていわれることもあるけれど、ミサンガって結ぶでしょ? アイヌの編み物は結ぶことはしません。2本の横糸のうち、隠したい方の糸を縦糸で引っ張ると、奥へ引っ込んで見えなくなる。そうやって模様を作ります。覚えるまでが大変だけど、頭に入ればどうということはないと思います。ハマる人はすっかりハマりますよ。
ー編み物と聞いたら、棒編みを連想してしまいますが、そうやって編むんですね。刺繍や織物はだいたいイメージ通りでしたが、編み物は想像と全然違っていました。
そもそもアイヌの女性の手しごとっていうと刺繍だけだと思われがちなのは、なぜだと思う? 材料がすぐに手に入り、トライしやすいからですよね。手軽に材料が手に入れば、気軽に作れる。結果、それだけ多く目にするようになり、作り方も広まっていく。
対して編み物は、シナノキが手に入らないから作っている様子を目にすることがないし、作る人も少ない。作品そのものも少ないから、それだけ目に触れる機会も少ない。だからみんな知らない。それでは遺っていかないですよね。だから私は技法を遺す、と決めてこの活動をしています。
ー何にこだわるかによって、劇的に手工芸作品の遺り方や親しみ方、技術の伝わり方は変わると思います。伝統素材にこだわる作家さんもいらっしゃるでしょうし、河岸さんのように技法を遺すことを重視する作家さんもいるということですよね。
後継者育成のようなことはされているんですか?
後継者育成は特にやっていません。白老町の事業で担い手事業があったんですが、5年で終わってしまいました。でも、編み方さえわかれば普通に家でできることだから、後継者なんて大袈裟なことでもないかなと思います。ペットの首輪でもなんでも、自由に作ったらいいんです。
もちろん古い伝統材料にこだわっている人もいらっしゃいます。でも私自身は今の材料を使ってアイヌ文様を遺す、そういう新しい考え方は良いことだと思ってやっています。
そうそう、万博でもお客様に「作ってみたいから本出してください」って言われて(笑)。
ー身近な素材で作れるなら、ぜひ作り方の本が欲しいです。
いま手芸ブームですもんね。素材が手に入れば、みなさん色々なものにチャレンジされるし、ブームもめぐりますものね。レジンなんて私が二十歳の時にもすっごく流行ったんですよ。指輪やブローチを散々作ったもの(笑)。
でもいつも思うのが、一番最初に編み物を考えた人がすごいなぁって。木でものを作ろうと思うことがすごいですし、なんの木でもいいわけではないじゃない? たまたま水に浸かって剥がれた皮を見て、これを使ってみようと思ったんだろうけど、生活と自然の距離が近くて、よく自然を見ているから気が付いたんでしょうね。

ー本当にそうですよね。最初の人の発想力に感謝したいです。
いま、河岸さんは生活に身近な、毎日使えるような作品をお作りになっていますが、今後作りたいものはありますか?
現代の生活に合わせ、なるべく実用的なグッズを作りたいと思っています。今はペットボトルホルダーが人気ですよね。自分が欲しいなぁと思えばすぐ作るし、頼まれて色々なものを作ったりもします。ギターストラップもよく頼まれますね。長くて幅があるからちょっと時間がかかりますが、息子が使っていて、それをご覧になった方に注文されます。あとはお財布とか。
とにかくね、若い人の持ち物をしょっちゅう見て、仲間内で情報交換して、流行りを研究しています。ハンドメイドは、パーツが手に入ればなんでも作れるから、そこが魅力ですよね。
ー今日お持ちのポシェットや名刺入れもみんな編み物ですよね。とっても素敵です。
これもエムシアツの編み方で作っています。幅が足りないから布に縫い付けてポシェットにしました。今後はすこしアートな作品もおもしろいかなって思っています。編み方はエムシアツで、白と黒の糸でチセ(アイヌ民族の家)を描いて、額に入れて飾ったりして。そんなのも良さそうでしょ?
大阪万博でお客様に「先生が付けているのと同じものをください」って注文をいただいて。普段は黙々と作品作りしているだけだし、ミュージアムショップに納品はしているけれど、なかなかお客様と直接お話しすることがないから、すごく楽しかったです。とても良い刺激をいただきました。

ーご縁がない限り、河岸さんに特別なものを作っていただく機会なんてないですから、万博で出逢われたお客様は幸運だと思います。編むのに時間はどれくらいかかるんですか?
制作時間はネックレスで1時間半ぐらい。もう図面が頭に入っているから。新しいデザインだと時間かかりますよ。調子に乗っていると間違えたりしてね(笑)。でも解けばやり直せるから、無駄にはなりません。綺麗にふっくらと、糸がよじれないように編むのが大変ですね。
ー長い時間、ありがとうございました。「編み方を遺す」という強い想いにとても心惹かれ、明日からでも編み物を始めたい気分です。今後も素敵な作品をお作りいただきたいと思います。編み方の本もぜひ一緒に作りたいですね。
<河岸麗子さんプロフィール>

小樽市生まれ、白老町在住。
1993年、旧アイヌ民族博物館入社、数十年にわたり主に女性の手しごとを担当し技能を磨く。マンロー資料など、海外の博物館に収蔵されるコレクションの複製プロジェクトに関わり、多数の制作を手掛ける。道内外で講師、実演、指導、展示会など幅広い活動を続け、近年はエムシアツの技法を用いた工芸品の制作と技術伝承に励む。また、天皇陛下来道の贈呈品としてアットウシの着物(現在は宮内庁に収蔵)を、中国・李克強首相来道の贈答品としてアイヌ文様タペストリーが起用。
2020年のウポポイ開業においては、リーフレット表紙にアットウシの着物が起用されている。
北海道アイヌ伝統工芸展 最優秀賞ほか、受賞多数。
【「手わざを訪ねて」について】
当社運営のミュージアムショップでお取り扱いさせていただいている作家さん、職人さんの手仕事にふれる読みものです。ご縁があり、伝統工芸士をはじめとした作家さん、職人さんの作品を扱わせていただく中で、みなさんの想いを伝え、工芸の面白さ、美しさを一人でも多くの方に知っていただくための、ささやかな取り組みです。
当社ではこうした活動を通して、「買う人を増やす」ことを大切に考えています。後継者を増やすことはなかなか難しいですが、確かな技術に裏付けられた伝統工芸品の価値を見極められること、そしてそれに相当した対価を払うこと。その意義を理解し、伝統と技を支える購入者を増やすことは、マスコミや我々のような商品を扱わせていただく者の役割と考えています。これからも、たくさんの作家さん、職人さんのお話をご紹介し、一人でも多くの方にファンになっていただき、作品を愛していただきたいと考えています。






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